令和5年度 戴帽式によせて

戴帽式(たいぼうしき)とは看護学生が医療機関での実習に赴く前に、看護業務に従事する者として生命と向き合う覚悟と、看護者としての誇りや責任を自覚させるための儀式です。

式の中でナースキャップを与え、ナイチンゲール像から灯をもらう伝統が代々受け継がれています。

 

この儀式は、ナイチンゲールクリミア戦争下、夜間も灯火を片手に野戦病院の患者の下を看回り、献身的な看護を行った故事に由来します(諸説あります)。

 

現在では、ナースキャップを廃止している医療機関が大半を占めます。戴帽式でもナースキャップを被らずにキャンドルサービスのみの場合が多いと聞きます。本校でも演習等でナースキャップを被ることはありませんが、儀式の中では今もその伝統が息づいています。

 

看護に何らかの関わりがないと戴帽式を知る機会は少ないと思います。私も看護学校で働くまで名前すら知りませんでした。職員として看護学生の頑張っている姿を見ていると、戴帽式看護学生たちにとって特別な式典であることが分かりはじめました。

 

看護の仕事は、憧れの職業として名前が挙がるもののひとつではないでしょうか。映画やドラマといった作品に看護モノが多いのもわかります。誰かを支えたり、命を救うための知識・技術をもつ存在というのは、素直にかっこいいなぁと思います。

 

専門知識を学ぶ学生たちは、『自分が知り得た知識・技術、個人情報等を悪用してはいけない』という倫理感が求められます。看護を行う者として、自分以外の誰かを尊重し、寄り添う気持ちが重要です。これは専門職だからというより、人として大切なことが求められているのだと思います。

 

戴帽生たちが暗唱するナイチンゲール誓詞には、看護者としての心構えが掲げられています。看護と初めて向き合った頃の気持ちをいつまでも持ち続けられたらいいですよね。私はやっと二つめの文章まで覚えることができました。三つ目が難しいんですよね。19世紀のアメリカで作られた原文を和訳したものなので、言い回しが独特で看護師の職業的な位置づけにも違和感を覚える人もいるそうです。ですが、看護の歴史や倫理観、現代看護との違いなども含めて、看護学生に様々なことを教えてくれています。

 

以前、先生がこんなことを言っていました。

「聴診器や注射とか、看護らしい実習はみんな盛り上がる。そういう看護への気持ちを高めることは大切。でも一番大切なことは、患者さんの心に寄り添うことなんだよね」

先生がふともらした言葉は、ナイチンゲール誓詞に掲げられた心構えそのものだなと思いました。授業を終え、教務室へと戻る廊下での何気ない会話でしたが数年たった今でも忘れられない言葉の一つです。

 

ナースキャップは折り紙のように手で追って形を整えます。

 

戴帽式というのは、その式典を経験したからといって何かを習得したり、特別な権利を得るわけではありません。ですが、この日を迎えることで戴帽生の心構えは大きな変化を迎えるのだと思います。

 

なんとなく、戴帽式は成人式に似ている部分があると思います。
成人式もその式典を経験したからと言って、人として一人前というわけではないですよね。でも、成人を迎えた自覚と責任、成長したことを祝う式典だと思います。

戴帽式を迎えれば、看護者として一人前と認められるわけではありません。むしろここから学ぶこと、実践するがたくさん待っています。基礎的な学習を経験し、これから本気で向き合うんだという覚悟と責任を持ってもらう機会です。

 

 

そしてよくここまで頑張ったね、という先生や学生のご家族の方の喜びや安堵を学生たちに伝える場でもあるのかな、と感じています。そんなあたたかい気持ちで私たちは戴帽式を行っています。看護学生にとってはここからが本番です。

 

 

戴帽を許可された学生は、来春から医療機関での実習を行います。実際の病棟で、入院されている患者さんに接します。看護学生として実習場に赴きますが、医療の現場に立つ者として自覚と責任が求められます。

 

 

 

半年前まで、看護についてまっさらな状態だったはずです。年齢も性別も、入学してきた背景も違う人たちが慣れない環境の中、短期間で戴帽の許可まで到達するのは大変な努力だと思います。みんな本当によくがんっばています。

 

 

その努力の先に取得する准看護師資格や看護師資格は、看護学生の未来を切り拓いてくれるものになるのではないでしょうか。10代の学生にとっては将来を、社会人学生にとっては人生を明るい方へと導いてくれるような気がします。それを可能にするだけの努力を看護学生はしていると思います。

 

看護者としての自覚と責任を胸に、65名の戴帽生が歩みはじめます。

 

 

 

ここからは、いつものように看護学生や先生たちの楽しそうな写真を貼っていきます。

 

 

 

 

こちらは2年生が、戴帽した1年生の教室にサプライズを仕掛けているところです。今の2年生も1年前に先輩たちからサプライズでお祝いを受け取りました。

 



それでは、また次回の更新で。